第32章 rear
「好き…」
万次郎の舌が、私の舌を追い回す。
…好きなら
何しても
キスしても
いいと思ってんの?
「ずっと…好きだった…」
ずっと好きだったら
何してもいいの?
「ラン…」
「っふ……」
どうしてそんなに優しい声で私の名前を呼ぶのに
私を無理やり押さえ付けるの…
なんで…
なんで…
なんでこんなことになっちゃったの…
「ま……っ…ん…」
力が強くて敵わない…
舌も唇も手も…
強くて敵わないのに…
私は今まで万次郎のこと…
ずっと同等だと思ってたんだ。
いつも万次郎は私のこと…
甘く見てたんだな…
「… ラン…こっち向いて」
やだ…
見れない…
見れない。
万次郎の顔をもう二度と…見られな…
グイと頬を掴まれ、
強く視線を合わされた。
万次郎の瞳が苦しそうに揺れていた。
「…俺じゃダメなの?」
「……っ、ごめん…」
そう言って目を逸らすしかなかった。
バイクを取りに戻って
家に着くまで、ずっと無言だった。
頭が真っ白で、もう何も考えられなかった。
この日から、万次郎を見る目が180度変わってしまった。
万次郎はただの家族で同志だった。
それ以上でも以下でもなく。
異性でも同性でもないような関係…
だと思っていたのは自分だけだった。
その事実が衝撃的すぎて
受け入れられなかった。
万次郎に対して今後どんな顔してどう接していいか、初めて分からなくなった。
こんなことに困ることになるということすら今まで生きてきて微塵も思わなかったのだ。
家に着いた途端、
万次郎は無言の無表情のまままたバイクに乗って去っていった。