第32章 rear
三ツ谷は、突然尋ねてきた万次郎に
驚きを隠せないでいた。
今日放課後会ったばかりなのに
一体なんだろうか。
「どーしたマイキー?
ちゃんとランのこと家に送り届けたか?」
万次郎は小さく頷いたきり
下を向いている。
「どうしたんだ?まさかランに何かあっ」
「殴られに来たんだ」
言葉を遮って言われた一言に
目を瞬かせる。
「は?…え?いきなりなんだよ」
「ランにキスした」
万次郎は、目を合わせないままハッキリとそう言った。
「ランがお前の女だってわかってたのに…
ランが今どんな状況かわかってるつもりだったのに」
「・・・」
「止められなかった」
沈黙が流れた。
もう辺りは真っ暗で
不気味なほどの静けさだ。
ゆっくりと万次郎が顔を上げる。
玄関の灯りと家からの灯りで
互いの表情がはっきりと見えた。
三ツ谷は驚いたような表情でも無ければ
怒っているような表情でもなかった。
まるで、
いつかこうなることがわかっていたかのように…。