第29章 rapture
「万次郎…ずいぶん捜したよ。」
ようやく声を発したランに、
タケミチはゾクッと鳥肌が立った。
本当にランの声かと思うくらいにそれは、
冷たく無機質で抑揚のないものだった。
「アタシから逃げられると思った?」
なにを…言ってるんだランさんは?
何がどうなってるんだ?!
なんでマイキーくんを…っ
一番ありえない人が…!
「ラン…」
「大丈夫。アタシも一緒に逝ってあげるから。
ずっと、どこまでも一緒って…約束したじゃん」
「・・・」
万次郎は黙ったまま、悲しげに笑っている。
タケミチはそんな二人の間で呼吸が苦しくなっていた。
一体何を言ってるんだこの人たちは?!
「やっと…終わるんだね…
オレの人生は苦しみだけだった…」
万次郎が涙を流しながら、どこかホッとしたようにそう言った。
「そんなこと言わないでマイキーくんっ…!
俺、変えれるから!俺過去に戻れるんだ!やり直せるんだ!こんな未来になんないように俺頑張るから!ぜってーぜってー諦めないから!!だからっ!」
タケミチは万次郎を強く抱き締めながら泣き叫んだ。
「だから!そんな悲しいこと言わないでっ…!」
「ふふ…ありがとうタケミっち…」
「え…?」
「オレを慰めてくれるんだな…
嘘でも嬉しいよ」
万次郎の体が徐々に冷たくなっていくのを感じた。
この状況に思考が追いつかない。
「タケミっち…」
「はい…」
「お前の手……あったかい…」
万次郎が涙を流したまま少し微笑み、
完全に動かなくなった。
「嘘だよ…返事してよ…ね、ねえ…マイキーくん…!」