第6章 recall
「万次郎」
私は通夜の数時間前、
万次郎の部屋に行った。
喪服に身を包んだ万次郎は
完全なる無の表情で佇んでいた。
「なに?」
声色だけはいつも通りだ。
でも私にはわかる。
作り笑いにすらなってないって。
私はゆっくりと万次郎を抱き締めた。
ハッとしたように息を飲む音が聞こえた。
「泣いてよ万次郎…我慢しないでよ…」
「………。」
「私の前でだけはさ、無理しないで?お願い…」
お願いだから…
心に溜め込まないで…
いつかきっと、壊れちゃうんだよ。
「お願い万次郎…私はどんな万次郎も受け入れるよ」
徐々に、万次郎の腕が背中に回り、ギュッと力が籠った。
だから私もキツく抱き締め返した。
「お前は…いなくならねぇ、よな…」
「うん…うん…いなくならないよ」
力を込めて、ギュッと目を瞑る。