第16章 rational
「んー。これ、やっぱ美味しいね。
最後なんて辛いな〜。
どーせ教えてくれないんでしょー?」
「ああ。教えるもんか。」
フッと笑った場地の顔も、
どこか哀しみを帯びていた。
結局どら焼きの店は最後まで教えてくれなかった。
帰り際、場地はいつもみたいに、
またな、とも、また来いよとも
言えなかった。
「じゃあね圭介…ありがとう」
「…おう。」
ドアを閉める時に一瞬目が合ったランの顔が、見たことの無いほど哀しく儚げで、
場地の胸がチリチリと焼かれるように熱くなった。
「くそ…っ…なんでそんな顔すんだよ…」
てめぇは三ツ谷と幸せになったんじゃねぇのかよ
昔からずっとずっと恋焦がれてきたあいつと…。
そんな顔させたくて
俺が死に物狂いで我慢してるわけじゃねーぞ。
「はぁ…っ。俺もこれが最後だな…」
そう言って生どら焼きを齧っていると、
先程出ていった三毛猫が窓から戻ってきた。
「おう…なんだっけお前…あー、エスペケか…。」
切なく笑って生どら焼きをちぎり、分け与える。
三毛猫は嬉しそうにチロチロと舌を出して頬張りだした。