第16章 rational
一瞬、時が止まったように感じた。
「なんで…知ってるの?」
「そんくらい、風の噂ですぐ耳に届くだろ」
「え……」
「普通、付き合ってる男がいんのに
他の男の家にノコノコ来て2人きりになるとか有り得ねぇだろ。お前さ、マジで頭大丈夫?」
「・・・」
別に隠していた訳では無いが、
なんとなく、周りに知られたくなかった。
それは、自分に対して接する周りの態度が変わってしまう気がしたからだ。
そう、たとえば、
こんなふうに…
「お前もう、俺の家、二度と来んな。」
場地の目が、今まで見たことないくらいに
氷のように冷たく感じた。
「俺、三ツ谷と殺り合いになりたくねーし」
「・・・」
「だからそれ、最後のどら焼きな。」
ランは、どことなく、心にポッカリ穴が空いたような気分になった。
「…そっか…。そうだよね…」
確かに三ツ谷だって、いい顔はしないだろう。
自分自身も、こうして2人きりで場地の家にいることに、なんとなく後ろめたさを感じているのがいい証拠だと思った。
ランは、行き場のない空虚な感情と、どうしようも無い切なさをこらえて、ゆっくりと立ち上がり、無理に笑顔を作った。