第11章 radiant
チャイムが鳴り響いた。
もう授業が始まったかもしれない。
「俺さ…ガキの頃からずっと、
ランのこと、大好きなんだ」
likeじゃなくて、Loveの方な。
という言葉は飲み込む。
少しの間があいたあと、
ランがそのままの体勢で声を出した。
「私も大好きだよ、万次郎のこと。
ガキの頃は嫌いだったけどね。
万次郎は、男だから。」
「・・・」
「でも…良い男がこの世にいるんだって、最初に教えてくれたのは万次郎だから。」
「……俺は…良い男かな…」
「うん。そう思うよ…
真一郎も、良い男だった。」
目をつぶっている2人の暗いまぶたの裏側には、真一郎の笑顔が浮かんだ。
「俺は…兄貴みてぇになれるかな」
「なれるよ」
「え?そんな即答?でも俺って」
「なれる。」
また強く即答したランに一瞬目を見開いてから、くくっと笑った。
「ランは良い女。」
そう呟いてまた空を見上げ、ゆっくり目を瞑る。
「俺さ…たまに……
自分じゃどうしようもできないような黒い衝動が出てきそうになることがあるんだ。
"もう1人の俺" みたいなのを…感じることがある。」
静かに紡ぐその声に耳を澄ませながら、ランはうっすら目を開けた。
「自分じゃどうにも制御できねぇ感じのさ…
俺が俺でなくなる気がして…
それがすごく…怖いんだ…。」
ゆっくりと横を向くと、
万次郎はまっすぐ上を見つめたまま苦しげに目を細めていた。
「あのね、万次郎…」
ランはもう一度上を見上げ流れる雲を見つめた。
「私も、あるよ…そういうの。
もう1人の、黒い私…」
今流れている、真っ白い雲にふわふわと飲み込まれたら、どれだけ楽だろうと思った。