第10章 return
千冬が帰ってから、
花のこと忘れてたよ〜っと言って花瓶に胡蝶蘭を生け、リビングのテーブルの上に置いた。
「今日さ…春樹の親友の彼女の病院にお見舞い行ったんだけどさ…帰ってくれって言われちゃったんだよね…」
その言葉に、場地は何も言わずに眉を顰める。
「あの子…早く回復してくれるといいな…
許せないよね、メビウス…」
そう寂しげに言って胡蝶蘭をいじくるランの指を見て目を見開いた。
よく見ると傷がついている。
「おいラン。これどーした?」
バッと手を掴んでそう言うと、
ランは気まずそうに笑った。
「あーこれ…その…花瓶が割れた時に…さ…」
その言葉でなんとなくなにがあったか察してしまった。
「消毒はしたのか?」
「してないけどこんなの平気だよ、
もう血も出てないし。」
「バカ!雑菌が入ったらどーする。
つーかこのまま放置しとくんじゃねーよ」
場地は棚から救急箱を取りだし、
消毒液で丁寧に拭い、絆創膏を貼った。
「ありがとう…圭介は相変わらず優しいね。
ねえ覚えてる?昔…子供のころもさ…
私が虐められて怪我した時も圭介がこうして同じように治療してくれたよね…
あれ、嬉しかった…」
「はっ。そうは見えなかったけどな」
「それは…だって…あの頃は…」
「わかってる。」
場地は優しげに目を細めてランの前髪を梳かした。