第10章 return
「い、いやいや…帰ります!
あ、その前に皿洗いしていきますね」
千冬は皿を持ってそそくさとキッチンで皿洗いを始めた。
背後から、場地とランの楽しげな話し声や笑い声が聞こえる。
それだけで千冬は満足だった。
どうか場地さんとランさんがうまくくっつきますように。
場地さんがいっぱい笑っていっぱい幸せ感じてくれんならもうこれ以上のことはない。
「じゃー、今度こそ俺、帰りますね」
「おー千冬、サンキューな」
「ありがとう千冬!…あ!ちょっと待って!」
千冬が玄関の前で立ち止まると、ランは今日病院で受け取ってもらえなかった花を紙袋から半分とって千冬に差し出した。
「これ、胡蝶蘭。
"幸福が飛んでくる"って花言葉があるの。」
千冬はそれを受け取り赤紫色の鮮やかな色を見つめる。
そしてまた顔を上げる。
そこには、同じような優しげな笑みを浮かべている2人の顔がこちらを見ていた。
この2人にどうか
たくさんの幸福が飛んできますように…。
千冬は心からそう願って頭を下げ、
場地の家をあとにした。