第4章 自分の大切な人を心配させないように
腹にぶつかった鈍い衝撃が体全体を震わす。視界が一気に布に覆われ、だれかに抱きとめられたのはわかった。
ガスのふかす音、ワイヤーの巻きとる音、ぐるぐると回転する体。だれかの息遣いが耳にかかる。
アリアは訳もわからずその“だれか”にしがみついた。
死を覚悟するような痛みはなく、アリアはだれかに抱きしめられたまま地面を転がった。
「……なにしてやがる」
低い声が降りかかった。
ぎゅうっと瞑っていた目をそっと開けると、視界いっぱいにリヴァイの顔があった。
喉の奥で音が鳴り、しばらく声が出ない。
なにがどうしてこうなった。
「……えと…………」
「急に落下しやがって。お前の腰にある立体機動装置は飾りか?」
仏頂面で、しかしわずかに怒りを滲ませた声でリヴァイは口早に言う。
「…………えー」
けれど、アリアはまだ声が出ない。
死ぬかと本気で思った。あんな落下、訓練兵時代にも経験しなかった。完全にアリアの頭は止まっていた。
「おい」
いくら待ってもうんともすんとも言わないアリアに呆れ、リヴァイはため息をついた。
地を転がったときにアリアに覆い被さるような形になっていたことに気づき、とりえずアリアの上からどく。
そこでようやくアリアは大きく息を吸った。
「あ、ありがとうございます、助けていただいて」
ぽろぽろぽろっ、と言葉が転がり落ちる。アリアは慌てて起き上がり、リヴァイの顔を見て改めて「ありがとうございます!」と言った。
「か、片側のアンカー噴射口になにかが詰まったようになって、えっと、それで落ちました」
とにかくあったことを伝えると、リヴァイは怪訝そうな顔をした。
「整備はしてなかったのか?」
「してたはずなんですけど……あ」
なにかを思い出したように、アリアは固まった。
「昨日は……整備の途中にハンジさんに呼ばれてそのままでした」
不備があったためそれを直そうとしていたのだが、ハンジに呼び出され、すっかり忘れてしまっていた。
その不備というのはもちろん、噴射口の詰まりのことだ。
あちゃー、と頭を抱えるアリアにもう一度ため息をつき、リヴァイは立ち上がった。