第17章 殺したくてたまらないという顔
ギリギリと歯を食いしばるアリアを見ながら、ハンジは考え込むようなそぶりを見せた。
「まだなんとも言えない段階にある。もちろん我々はなんとしてでもエレンの力を活用したいと思っているよ。そのためにもエレンを憲兵団に渡すわけにはいかない。なんとかして調査兵団預かりになったらいいんだけど」
「団長は何か言っていましたか?」
「考えはあるようだけど彼の頭の中だけだ。つまり、何も言われてない。まぁまずは面会だね。エレンの意思も確認しないといけないし」
もし万が一、エレン本人が死を望んでいるというのなら。
正体不明の力を解剖によって調べ尽くしてほしいと言うのなら。
そのときは──
「絶対にだめ」
食いしばった歯の隙間から唸り声が漏れる。
両手を握りしめ、アリアは鋭い目でハンジを見た。
「あの子をみすみす殺すくらいならわたしが──」
「アリア」
それ以上の言葉を遮るようにハンジは言った。
どこで誰の耳があるかわからない。
アリアは息を吐き、ゆっくりと体から力を抜いた。
「冗談です。わたし一人でどうにかできる問題ではないとわかってます。でも、エレンはわたしにとっても大切なんです。幼いころから家族同然に育ってきたから」
こんなときなのに何もできない自分がもどかしくて仕方ない。
アルミンやミカサも同じ気持ちだろう。せめてあの二人と話せたらいいのだが、訓練兵の兵舎に単身乗り込むわけにもいかない。
「とにかくアリア。君は今自分ができることをやるんだ。何が起こるかわからない。訓練は怠らないようにね。ま、君に限って訓練をサボるなんてことはないだろうけど」
「……はい」
頷いたアリアにハンジは優しく微笑みかけた。
「あの、ハンジ分隊長」
「ん?」
息を吸う。
今のアリアにできることは限られている。だから、せめて、
「エレンを、よろしくお願いします」
願うことは許してほしい。