第16章 忌まわしき日
初めて入るリヴァイの執務室にはほのかに紅茶の良い香りが漂っていた。
テーブルの上には二人分のティーカップが置かれている。カップに描かれた模様は同じで、リヴァイとアリアの私物なのだとわかった。
「来たか」
リヴァイは窓を背にして奥の椅子に座っていた。
ペトラとオルオを見ると、ひとつ頷いて立ち上がる。
「新しい紅茶でも淹れましょうか?」
「いや、いい。手短で済む話だ」
「それもそうですね」
口の中がカラカラに乾いていた。
オルオをちらりと見る。唇をきゅっと引き結び、その顔は真っ青だった。こちらが言えたことではないが緊張しすぎだ。
リヴァイは真っ直ぐに二人の元に歩いてきた。
背筋がこれでもかと伸びる。
改めて近くで見ると、視線の高さはほとんど同じなのに腹の底から震える気迫があった。鋭い眼光がペトラとオルオの顔を順番に見る。
いったいこれから何を言われるのだろう。頭の中ではマイナスなことばかりが巡っていた。開拓地送り? 何もしてないのに! それとも何かしらの罰を宣告されるのかも……。本当に何もしてないのに!!
「単刀直入に言う。だらだらと長ったらしいのは嫌いなんでな」
「「は、はいっ!」」
後ろで組んだ手をぎゅっときつく握りしめた。
目を閉じたくても目の前の圧迫感のせいで閉じられない。代わりに唇を噛み締めた。心臓が今にも飛び出してしまいそうだった。
すぅ、とリヴァイが息を吸った。
「お前たちを特別作戦班へ勧誘したい」
告げられた一言はどこまでも明瞭だった。
強く噛み締めていた唇が薄く開く。
思わず隣を見ると、オルオが今までに見たことがないほどあんぐりと大きな口を開けていた。あまりの間抜け面にリヴァイの眉間のシワがさらに深くなり、後ろに佇むアリアが堪えきれない、というように噴き出した。