第16章 忌まわしき日
ペトラとオルオは長い廊下を歩いていた。窓の外はあいにくの曇り空で、木々たちが空風に吹かれて寂しげに揺れている。
あのあと何とか昼食を全て腹に押し込んだ二人は、身なりをきちんと整えてから言われた通りリヴァイの執務室に向かっていた。
「……私たち、何かしたのかな」
緊張を堪えきれず、ペトラはつぶやいた。
「い、いやいや、アリアさんならともかく、リヴァイ兵長と関わる機会なんて滅多にないだろ。それなのに何かしたなんて……あるわけねぇって」
隣を歩くオルオがひっくり返った声で答える。
もう10回ほど同じようなやり取りを繰り返していた。
思わずペトラは口元を手で押さえた。このままだと詰め込んだ昼食が戻ってきそうだ。
「も、もしかしたらアリアさんに何か失礼なことしちゃったのかも。それで兵長が怒って……」
「あ、あるわけねぇだろ、そんなこと。アリアさんは、そんな、そんな人じゃねぇし」
「それはそうだけど」
「だいたい何でアリアさんのことで兵長が怒るんだよ」
「それは……」
彼らがただの上官と部下というだけの関係ではないことをペトラは知っていた。だがそれをこの腐れ縁に言うべきか悩み、何も言わないことにした。
「もしかしたらだ、ペトラ」
言いながら、オルオがペトラの前に行く。カッコつけてくるりとその場で回り、人差し指でペトラを指した。
「俺たちを特別作戦班に加入させようって話なんじゃねぇか?」
ペトラはその場に立ち止まり、まじまじと目の前の男を見つめた。
彼の言いたいことを理解して、弾かれたように声を出して笑った。あまりの笑いっぷりに「な、何だよ」とオルオが唇を尖らせる。
「だって! まさか、私たちが特別作戦班? ないない! ぜーーったいない! そりゃあ憧れの班だけど私たちが入れるようなところじゃないよ!」