第12章 キャラメルの包み紙をポケットに入れる
「訓練兵団への出張?」
いつものようにエルヴィンの元へ紅茶を届けに来たアリアはおうむ返しに聞き返した。
何枚もの書類に目を通していたエルヴィンはそこから顔を上げて頷く。
「君のときもあったと思うんだが、新兵に対してそれぞれの兵団が説明会のようなものを開くんだ。憲兵団、駐屯兵団、調査兵団の幹部が集まる珍しい機会だ」
「あぁ……確かにそんなことがあったような」
言いながらアリアは訓練兵のころを思い出す。
だがどうしてもそんな説明会が開かれた記憶はなかった。どうしてだろう。
「あ、そのときわたし医務室で寝込んでました」
そしてようやく思い当たった。
「医務室で?」
「はい。訓練の最中に腕を折ってしまって、その熱がどうしても下がらなくて……」
「それは、災難だったな」
「まぁ最初からどの兵団に入るかは決めていたのであまり問題はなかったんですけどね」
エルヴィン分隊長、とってもカッコよかったわ!! と親友のオリヴィアが熱く語っていたこともつられて思い出した。他の女の子たちも盛り上がっていたなぁ。もうみんな、死んでしまったけれど。
「アリア、どうした?」
「いえ、なんでもありません。それで、その説明会にエルヴィン団長が行かれるんですね」
空っぽになっていたティーカップに紅茶を入れる。
エルヴィンはありがとう、と言うとカップを持ち上げた。
「そうだ。それもまた団長の務めだからね」
「お一人でですか?」
わたしのときは団長と分隊長がいらしたんですよね、と言葉を続けると彼は静かに微笑んだ。相変わらず完璧な微笑みだ。そして、どこか胡散臭さを感じる。
「……あの」
それはアリアに嫌な予感をもたらした。
その微笑みを彼が浮かべるとき、決まって何かしらの役目がアリアに言い渡されるのだ。
エルヴィンは書類の山の中から一枚の紙を取り出してアリアに渡した。
「今回は私と君が行くことになっている」
手渡された紙は説明会の企画書だった。
ポカン、と口を開けて紙とエルヴィンを見比べる。
「へ……?」
いったいどうして???