第10章 愛してる
アリアは目を見開き、荒い呼吸を繰り返していた。
グリュックの手綱を握った左手の感覚はほとんどなかった。右の手のひらにずしりとある信煙弾の重み。開けた草原を走っているのはアリアただひとりだった。
息を吸う度に血の匂いが肺を満たした。
あと少しの命。心臓はかたい鼓動を繰り返し、必死に体に血液を送っていた。乾いた目尻から涙が滑り落ちる。
打て。信煙弾を打つのだ。
がたがたと震える手で銃口を目の前の敵に向ける。
それは右足を支点にし、左足を高く上げていた。両手を振り上げ、じっと狙いを定める。その手の中には潰された岩石。
逃げ出すわけにはいかない。
この命と引き換えに、あの人にすべてを託したのだから。
眼前に無数の石のつぶてがあった。それと同時にアリアの人差し指は引き金を引いていた。