第9章 姉さんの隣で海を見たい
落ち葉を踏み締め、アリアは歩く。
オリヴィアとカミラの墓参りの帰りだった。
街はすでに秋へ姿を変えていた。先週まで夏の蒸し暑さに喘いでいたが、気づけば過ごしやすい気温になっていた。
リヴァイから頼まれていた掃除道具の調達のため、すぐには帰らず街を一人進む。
ウォールマリアの壁が破壊されてから、もう少しで一年を迎える。
超大型巨人と鎧の巨人の正体は未だ不明で、壁の穴を塞ぐ目処も立っていない。だが着実に、世間は落ち着きを取り戻しつつあった。
来年にはエレンやアルミン、ミカサたちは訓練兵団に入ると手紙に書いてあった。きっと、調査兵団に入るのだろう。ミカサはエレンについていくだろうし、アルミンもそうだ。それに、調査兵団にはアリアもいる。
(本当は、やめておけって言いたいんだけどなぁ)
ため息をつき、アリアは購入した掃除道具を抱え直す。
巨人の恐ろしさを知っていながら調査兵団に入ろうとする人間はそう多くないだろう。死にに行くようなものだ。それをアリアはよく知っている。
だからこそ、アルミンたちには長生きしてもらいたかった。
だが、アリアが止めたところで素直に聞き入れる子どもたちではない。特に今のエレンは。
ふっと、アリアの鼻先をいい香りがくすぐった。
物思いから覚め、なんとなくその香りの正体を探す。
「ケーキ屋さん……?」
そこはちょうど、いつもお世話になっている紅茶屋のすぐ隣だった。
先月オープンしたばかりのそこは、それほど人気がない。
何かに誘われるように、アリアは店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、落ち着いた初老の男が低い声でアリアに言った。
それに会釈を返しつつ、店内を見渡す。
どうやら喫茶店とケーキ屋が合体している店らしい。
「今はさつまいものケーキが美味しいですよ」
ショーケースを覗き込み、店主の言うさつまいものケーキを探す。
「……美味しそう」
艶やかに輝くさつまいもの乗ったケーキ。他に並んでいるケーキよりも、それはアリアの目を引いた。