第8章 これから恋敵
アリアもまた、ペトラの言葉に嬉しそうに笑った。
その時、遠くの鐘が夕刻の時間を告げるように鳴り響いた。
「わ、もうそんな時間か」
アリアは大きな鐘の音に肩を跳ねさせ、何かいいことでも思いついたのか、手を打ち鳴らした。
「そうだ、ペトラ。今日ね、夕食の後に特別作戦班のメンバーでお茶会をするの」
「お茶会?」
「うん。もしペトラさえ良ければ一緒にどう?」
「えっ!? と、特別作戦班のメンバーって、そんな」
ペトラの笑顔が引っ込み、代わりに青ざめる。
軽い調子でアリアは言っているが、特別作戦班といえば調査兵団の中で精鋭中の精鋭が集まる場所。そんなところにたった一人で放り込まれると思うと、恐れ多すぎる。
そして何より、そこにはリヴァイもいるはずだ。
「一人が嫌だったらオルオも連れてきて! 人数が増えた方が楽しいし、でもまぁ、一番は」
朗らかなアリアの顔が途端に厳しさを増した。
「エルマーさんに話を聞かないといけないし」
「その、カミラさんのことを勝手に話されたの、怒ってますか?」
腕を組んで鼻を鳴らすアリアは、ペトラの問いにゆっくりと首を横に振った。
「ううん。話されるのはいいの。別にカミラさんのことを思い出したくないわけじゃないし。でも問題はそこじゃなくてね、わたしがエルマーさんに気を使わせちゃってたことなの」
穏やかなため息と共にアリアは歩き出す。その横に並んで、ペトラは彼女の言葉の続きを待った。
「カミラさんが亡くなって、本当に悲しかった。わたしにはどうすることもできないことで亡くなってしまったから余計に。わたしは特にカミラさんと仲が良かったし。でも、それが原因で腫れ物みたいに扱われるのは嫌なの。ある程度の気遣いは嬉しいけどね」
「少し、わかります。気を使われれば使われるほど、自分が虚しく感じちゃうんですよね」
「うん。だから、きっちりエルマーさんと、あとナスヴェッターさんに話をしなくちゃ」
視線の先に食堂が見えてきた。訓練を終えたり、その日の業務を終えた兵士たちが夕食を求めて吸い込まれていく。
足を進めながら、ペトラは息を吸った。
「お茶会、お邪魔しても構いませんか?」