第5章 男が悪魔になることを望む女
アリアはしばらくなにも言わず、じっとリヴァイを見上げていた。そして、表情を緩めた。
「ありがとうございます、リヴァイさん。そう言っていただけてなんだか心が軽くなりました」
リヴァイもわずかに口角を上げる。
気にするな、と言うようにアリアの肩から手を離し、立ち上がった。
「手当、助かった」
「いえ、こちらこそ」
もう行ってしまうのか。
医務室のドアノブに手をかけたリヴァイの後ろ姿を見つめながらそんなことを思う。
できるのならもう少し話がしたかった。今度は悩み相談のようなものではなく、楽しく、明るい話を。
「アリア」
医務室を出ようとしたリヴァイが動きを止め、振り返る。アリアは首を傾げた。
「どうされました?」
言いづらそうにリヴァイは目線を泳がせる。
その仕草をアリアはどこかで見たことがあった。
(あ、紅茶屋さんに一緒に行こうって誘われたときだ)
普段ならズバズバと言葉を飛ばすリヴァイが口ごもることは珍しい。そんなときは大抵照れやなにかしらの葛藤があるときだと、アリアはこの1年で学んでいた。
急かすことはせず、リヴァイの言葉を待つ。
やがて腹を括ったのか、リヴァイの唇が動いた。
「紅茶に合う菓子を見つけた。食べるか?」
今にも飛び出しそうな心臓を飲み込み、アリアは急いで立ち上がった。
「ぜひ!」