第3章 正しいと思う方を
「心臓を捧げよ!」
教官の一声と共に、訓練兵は一斉に右拳を左胸に叩きつけた。
時刻は夜。
訓練兵、総勢224名が今日、訓練兵団を卒団する。
厳しい訓練に耐えきれず、逃げ出した者も開拓地送りになった者、中には訓練中に命を落とした者もいた。
そんな中、残った224名の目には決意がみなぎっている。
「本日をもって訓練兵を卒業する諸君らには3つの選択肢がある」
1つ、壁の強化に努め、各街を守る駐屯兵団。
1つ、犠牲を覚悟し、壁外の巨人領域に挑む調査兵団。
1つ、王の下で民を統制し、秩序を守る憲兵団。
ぎゅっ、と後ろで組んだ手をアリアは握りしめた。
「無論、憲兵団を希望できるのは成績上位者10名のみだ。ただ今より、その10名を発表する」
教官は懐に入れていた1枚の紙を広げた。
あそこに成績上位者10名が書かれている。
かがり火の火の粉がパチパチと夜空に舞った。
「首席――アリア・アルレルト」
「はい」
ずらりと並ぶ訓練兵と向き直るように設置された台の上に立った。
ここまで本当に長かった。
訓練兵団に入る前から調査兵団への入団を望んでいた。そして、巨人と戦い、死なないための力を身につけるのに文字通り血のにじむような努力を重ねた。
(やっと、やっと……ここまで来れた)
だがここはまだスタートラインに過ぎない。
ここからだ。ここからアリアの、弟の願いを叶えるために今まで以上に頑張らなければならない。
(わたしは死なない。アルミンに外の世界を、“海”を見せるまで死ぬわけにはいかない)
続々と他の上位者が呼ばれ、アリアの隣に並んでいく。その中にはオリヴィアもいた。
「明日の夜、諸君らの入団式を行う。調査兵団に入団する者はこの第1広場に。憲兵団を希望する者は第3広場へ、駐屯兵団は第5広場へ行くように。――では」
紙を懐にしまった教官は息を吸った。
「諸君らの奮戦を期待する! 心臓を捧げよ!」
「「ハッ!」」
夜空の下、224人は訓練兵団を卒団した。