第2章 水の中
パーティー当日、薄水色のイブニングドレスに着替えた。
痩せてしまった体を隠すように肩や腰回りにフリルをつけ、華やかに演出して見せた。
チュールを履き、ふんわりとスカートをさせることでいつもより可憐な装いになった。
いつもと違う姿で、新鮮な姿で合えば少しは振り向いてくれるのではないかと、淡い期待を抱く。
サファイアの首飾りとイヤリングをつける。
念入りに身だしなみをチェックしていると、部屋にだれか尋ねて来たようだった。
思わず心が踊る。
だれか確認せずに部屋を飛び出す。
「イリス様!」
しかし、目の前に立っていたのはイリス様の執事だった。
「あ・・・。」
何を言われるかわかってしまった。
まるで地面がなくなってしまったかのように、グワングワンと足元が不安定になる。
悟られないように、必死に直立する。
「本日、アウローラ様の体調がすぐれないということで、大変心配していらっしゃいました。今日は妹君様と出席なさるようです。」
「かしこまりました・・・。」
ドアが閉まると同時に崩れ落ちる。
なんて愚かなのだろう。
愛されると思っていたのが間違いだったのだ。
誰も、自分の存在など気にしていない。
私が消えても誰も何も思わないだろう。
なんとか机までたどり着くと、書類を取り出す。
こういうものはアナログなんだと、ぼんやりと考えながら署名する。
髪の毛を下ろす。
刃物を取り出し、膝まである長い髪の毛を首元まで切り落とす。
ドレスを脱ぎ、白色のシフォン素材の細身のワンピースに着替える。
ネックレスもイヤリングも何もかも外し乱雑に化粧代に置く。
そして一枚の紙切れと、小さなカバンを持って部屋を出た。
「アウローラ様!!!」
先ほどの執事が驚いたように声をあげた。
「イリス様は・・・?」
「すでに会場の方に・・。」
「そう、これをお渡ししといてください。」
丁寧に一枚の紙を渡し、踵を返す。
「お待ちください!!どちらに!?」
「どちらに?と言われても・・。部屋に戻るだけです。」
優しく、困ったように微笑むと、元来た道を戻って行った。