第4章 氷の心を溶かすのは
「・・・・・・私をどこまで侮辱すれば済むのですか・・?」
乾いた音の正体はアウローラだった。
アウローラが彼を叩いたのである。
「いったいどこまで、私を傷つけるのですか・・。」
「アウローラ・・。お前は俺が好きだったじゃないか。今なら抱いてやる、だから!」
もう一度乾いた音がする。
「いい加減にしなさい。」
周りの気温が下がるような冷たい声だった。
イザークまでもゾクリとする声色。
「私にはあなたしかいなかった。だからあなたを愛しました。あなたに必要とされる人になりたいと、努力してきました。しかし私のことはただの母体としか見ていなかったみたいね。婚約破棄を突きつけたのは、別れても自分の元に戻ってくると思っていたから。」
「アウローラ・・・違うんだ・・。」
「私の帰る場所を奪い、私を慈悲深く愛人として迎えるつもりだったのでしょう?」
「アウローラ!!」
「何が違うと言うの?」
声を荒げたイリスよりも、静かに語るアウローラの方が迫力がある。
「何度も人の尊厳を踏みにじっておいて、今更になって必要?」
つかつかとイリスの目の前まで歩いていく。
「下がりなさい、これ以上私を侮辱することは許さない。」
怒りなど見せたことがないアウローラの剣幕にたじろぐ。
そのまま後ずさり、イリスは小走りで去っていった。
「アウローラ・・!」
ふらっとしたアウローラを支える。
「イザーク・・・。私・・・。」
「ああ、ああ。何も言わなくていい・・。」
彼の温もりにすがるように抱きつく。
イザークが細い腰に手をまわす。
そして優しいキスを落とす。
その柔らかい感触を確かめるために目を閉じた。
息をするため少し口を開くと、彼の舌が侵入してきた。
思わず後ろに引いてしまいそうになるが、彼が腰を引き寄せたため逃げれない。
「もう逃がさない・・・」
耳元で囁かれ全身が火を吹きそうなほど暑くなった。
そんな様子を余裕たっぷりに見下ろす。
「愛してる・・・」
その言葉を聞いて全身の力が抜けた。