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崩れる花

第1章 夕暮れ時


部屋に戻る。
すれ違ったメイドに不審な顔をされたがどうでもよかった。

私は19歳で彼は22歳で、お互いに良い年だというのに、一向に結婚の話題がないことで、なんとなくこの結婚に抵抗しているのは感じていた。

ドリス令嬢は、私が愛人の子であること、卑しい血が流れているということ、男にだらしがないなど、誹謗中傷や根も葉もない噂をばらまいていた。

それを少し注意しただけ。

ここでは少しの失態もすぐ広まる。

だからこそ、彼のためにも気を張ってきたというのに。
それは一瞬で崩れ去り、婚約破棄を言い出すきっかけを作ってしまった。

彼に愛されたいと思うのはそれほどいけない願いだったのだろうか。

服を脱ぎ捨て、綺麗にまとめあげた髪の毛も全てほどく。

「お母様・・・・。」

母は、周りの重圧に耐えきれず、自ら死を選んだ。

母は繊細で美しい線の細い人だった。
父にどうせなら美人を、と目をつけられ、母の家族の借金の代わりに関係を持ち、私が生まれた。

私に残してくれた一枚の手紙、それだけが母との繋がりである。

「お母様に会いに行ってもよろしいですか・・・?」

ずっと、どんなに勉強が、周りが苦しくても泣いたことはなかった。

いつか、報われると思っていたから。

張り詰めていた糸はどうやら綻び始めていたらしい。
少しの衝撃で切れてしまった。

いつの間にか眠っていたらしい。
急いで朝食に向かう準備をする。

一人で着替え、髪を結い化粧をする。
服を着替え外に出ようとドアノブに手をかける。
自分の手が震えていることに気付く。

このままではいけないと深呼吸をする。

「おはようございます、イリス様。」

できるだけ明るい、完璧な笑顔を作る。
が、自分でも引きつっているのがわかる。
このまま朝食に行くことはできない。
だが、今日このまま行かなければ、また気をひくためだとか、わがままだと言われてしまうのだろう。

時間がない。
勇気を振り絞り部屋を出た。
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