第4章 氷の心を溶かすのは
思わず彼女をバルコニーに連れ出してお互い沈黙したまま見つめ合う。
「寒くないか・・・。」
彼女は緩く首を横に振る。
その姿を熱っぽくイザークが見つめる。
そして腰に回した手を強く引き寄せる。
照れるかと思ったが彼女はイザークを見つめる。
彼女がすっと目を閉じる。
それを見たイザークはもう我慢できなかった。
彼女の体を包み込み、きつく抱きしめる。
二人の唇が重なった。
アウローラもイザークを抱きしめる。
決して激しくはない、まるで絵画のように静かな口づけ。
今唇を離したら、消えてしまうのではないか。
光となり自分の腕をすり抜けていってしまうのではないか。
自分のものにしなければ、空に帰ってしまうのではないか。
「イザーク・・・・。」
彼女の口が自分の名を口にする。
現実なのだと、彼女がここにいるのを確信する。
成功したのだ、自分に地上に繋ぎ止めておくことに。
もう消えてしまうことはない。
「アウローラ・・・。一緒にきてほしい。」
彼女の髪が夜風に揺れる。
「私はもう、苦しみたくないのです。もう誰も愛したくない。次、だれかを愛してしまったら、私はどうしたらいいの?」
綺麗な眉が葉の字に歪む。
必死に涙をこらえているようだった。
「アウローラ・・・。苦しめてたりしない。絶対、約束する。」
「あなたは、プラントに帰ったら私のことなんて忘れてしまうでしょう。その気持ちは今、地球にいる女が珍しいだけだわ。」
「そんなことはない!!」
「楽しかったでしょう?扱いやすい女で遊ぶのは。」
その言葉に驚く。
そこでやっと気づく。
彼女は俺に遊ばれていると思っているのだ。
だからじっとイザークの瞳を覗き込んでその真意を探っていたのだ。
驚き固まっているイザークを見て、彼女はふと笑った。
「これで終わりです。」
髪飾りを外し、耳飾りを外す。
そして装飾品を全て外す。
背中に手を回し、リボンを解く。
「な、何を!?」
思わずイザークが止めに入る。
「もういらないものですから。全て・・・。」
イザークの手を押しのける。
「さようなら。」
彼女はバルコニーの端から、手すりを乗り越えてそのまま後ろに倒れた。