第2章 水の中
女性の苦しそうな息遣いが聞こえた。
パーティーが始まり、飽き飽きしていた頃、イザークは一人で抜け出していた。
知ったからには見捨てることはできない。
声が聞こえた方に進む。
そこには一人の女性がうずくまっていた。
肩より少し短い、プラチナブロンドの髪、細い手足、弱々しく揺れる琥珀色の瞳。
細い髪は風にさらさらと揺れている。
細い体は、男の庇護欲をそそるのだろう。
正直ドキッとしてしまったのは事実だ。
声をかけると彼女は素直に従えばいいものの、放って置いてほしいと言い張る。
こんなにも体調が悪いというのに、見捨てることなどできるわけがない。
ついつい、声に苛立ちがにじむ。
彼女の瞳がウルウルと涙がたまり始め、思わずため息をつきたくなる。
厄介な相手だと。
「ここにいたのか。」
ありったけの力を込めて、彼の胸を押し返す。
今一番聞きたくない声が聞こた。
イリスだ。
「なるほど、すべて俺の気を引くための行動か?」
今まで聞いたことがないほど、低く冷たい声だった。
「違います。体調が悪く、その、助けていただいただけです。」
懇願するような目で彼を見つめる。
まだ、気持ちの整理がついていないというのに。
「なるほど、また泣くか?どこで男を手玉に取る方法を学んできたんだ?王宮でもやっていたのか?」
かぁ、と羞恥心と怒りで頭に血が上る。
だが、反論すれば、もっと酷い言葉を浴びせてくるかもしれない。
「内容はよくわかりませんが、彼女の体調がすぐれないというのは事実です。早く休ませていただきたいのですが。」
それまで黙っていたイザークがめんどくさいことに巻き込まれたと思いながら男に語りかける。
「いや、すまない。彼女が迷惑をかけたな。」
今までずっと焦がれていた彼の元に行けるというのに、どうしてこんなにも体が震えるのだろう。
「おやめください・・・。私のことなど放っておいて、・・。」
絶望的な状況にどうしたらいいかわからない。
頭はまるで金槌で叩かれているかのように痛い。
意識を保っているだけで精一杯だ。
「彼女を渡してください。」
私を抱いていた男は、私のわがままで起こっていることなのだろうと深く考えずに私をイリス様に手渡した。