第3章 ピンクムーン
「子供ちゃん、お外寒いかもしれないから
上着も着よっか?」
「うん!」
上着も嫌がるのに
なんなら自分で着ようとしている。
「上手だね~!」
「だって3さいだもん!」
これ以上ないドヤ顔
「そうだもんね!3歳だもんね!」
その間に急いで自分も準備する。
「あれ?子供ちゃん?」
リビングにいたはずなのに、姿が見当たらない。
「ママぁ!はやく~!」
声のした方に向かうと、玄関で靴まで履いていた。
………正確には靴ではない
長靴。
1ヶ月前から突然の長靴ブームがやってきて
それからは、天気なんか関係なく
毎日長靴。
ただ、その前のカッパブームよりは全然いい。
そしてたまたまだろうけど
左右間違えずに履けている。
「おくつも自分で履いたの?」
「そうだよ!ねぇ!はやくしないと、パパ、まってるかも!」
「そうだね。早くお迎え行こうね」
「うん!」
あ、忘れてた
当の本人への連絡
【お疲れ様です!今日帰り早いから、子供ちゃんと一緒に駅までお迎えに行きます!もし鉄朗さんの方が早く着いたら待ってて下さい】
送りっぱなしで家を出る
ちょっとだけ、
こんな時間にって怒られるかな?って、
実はビクビクしている。
だけど、いまさら
子供ちゃんにやっぱりダメだなんて言ったら
この後の惨劇は目に見えている。
手を繋いでエレベーターに乗って、
駐輪場で二人で自転車に乗って。
「しゅっぱーつ!しんこー!」
「はーい!発車しまーす!」
自転車は、クロスバイクから電動自転車に変わった。
後ろには子供ちゃん
「ほいくえんといっしょのみちなのに、
きょうはくらいね~!」
「夜だからねぇ」
「子供ちゃん、くらいときにじてんしゃのったのはじめて!」
「ほんとだね~」
子供が産まれる前に引っ越したんだけど、
相変わらずマンションからは月は見えない。
角を曲がる。
「あ!ねぇ、子供ちゃん見て!お月様!」