第1章 1
「…………」
あのまま、気を失った緋芽をプール脇のプールハウスへと、運んで。
ベッドでスヤスヤ眠るかわいい緋芽の寝顔を見つめた。
学年トップで。
生徒会長で。
なんでも出来ちゃう緋芽。
だけどほんとは、人一倍努力して、頑張って頑張って、今の地位に緋芽がいるの、知ってる。
『姫』なんて呼ばれちゃうくらいには学園の女王様みたいに崇拝されてるけど、全部緋芽の努力の結果なんだ。
テスト勉強だって死ぬほど頑張って。
頑張って。
首席をキープしてるのに。
なんでもないように笑う。
みっともないところ、誰にも見せられなくて陰でひとりで泣いてるのも知ってる。
『大丈夫』。
全然大丈夫なんかじゃないのに、平気そうに笑って。
何度も何度も無理して倒れたこともある。
だけどそれでも、笑って、緋芽はみんなの前に立つんだ。
かわいい緋芽。
負けず嫌いな緋芽。
頑張り屋さんの緋芽。
泣き虫の緋芽。
…………お姉ちゃんの、緋芽。
全部全部、大好きだ。
たとえ緋芽が、60分だけ先に産まれただけの、お姉ちゃんだとしても。
「…………こう」
「起きた?プールハウスだよ。緋芽ちゃん、急に動かなくなるからびっくりしたよ」
わざとらしくそう、言えば。
沸々と記憶でも蘇ったのか真っ赤になる緋芽。
ほんとかわいいんだよね、緋芽。
「皇っ!!だから、人前であーゆーのは!!」
「人前じゃなきゃいい?例えば今とか」
「…………ッッ」
起き上がった体は、また勢い良くベッドへと倒れ込み、さらには布団まで追加された。
緋芽ちゃん、かわいすぎなんだってば。
「お、弟のくせに最近皇、生意気っ」
「そう?俺はいつだって姫の忠実なしもべなつもりなんだけど」
「どこがよ!!」
「こうやって気を失った緋芽ちゃん、プールハウスまで運んだじゃん。火照ったままの緋芽ちゃん、部屋まで運んだ方が良かった?こっちのが誰にも会わなくていいかと思ったんだけどなー」