第1章 1
「緋芽ちゃん」
プールの真ん中。
1番水深の深い場所。
緋芽もここでは、爪先がなんとかつくくらいの深さ。
だから。
緋芽の体ごとざばん、て、水面から抱き上げた。
わー、たかーい。
なんて。
抱き上げられるまま楽しそうにキャーキャー騒いでる緋芽の唇を、不意に奪う。
「ぇ」
「だって緋芽ちゃん、かわいくて」
驚きにこっちを見下ろして、緋芽の視線がみるみる険しく、歪んだ。
「皇、だから人前じゃこーゆーのは」
「誰もいないよ」
「誰か見てるかもしんないじゃん」
「見てないよ。みんなそんな暇じゃないって」
「も、降りる。皇、離して」
抱き上げた腕を解こうと本気で抵抗する緋芽のからだごと、水の中へと引き込んで。
水の中で、緋芽の唇へと自分のそれを重ねた。
びっくりしたようにこっちを見る緋芽の唇を割って舌を絡める。
水の中でどんなに抵抗したって無駄だよ。
離す気なんてないもん。
それにここなら、緋芽足つかないでしょ。
俺から逃げられると思ってる?
ぐ、と緋芽の体を抱きしめてキスを夢中で貪れば。
急に緋芽の力が抜けて。
抵抗が、止む。
ゆっくりと目を開けると。
ぐったりとしてる緋芽が視界にうつって。
慌てて水面から緋芽を解放した。
途端。
「…っゴホ…っ、ゲホっ、ゴホ…………ッッ」
苦しそうに荒く呼吸を吐き出す、緋芽。
「ごめん、緋芽ちゃん。大丈夫?」
水面から体を引き上げて、だけど緋芽を抱き上げた腕はそのままに、右手で背中をさすってやれば。
緋芽は両手をそのまま首へと回して抱きついてきた。
「緋芽ちゃん?」
「皇、水平気なの?」
「え」
「潜れるの?」
「…………」
「泳げるの?皇」
今さっき、溺れかけたばっかなのに。
俺のせいで苦しかったはずなのに。
なんで嬉しそうなの。
緋芽。
「…少し、なら」
「すごいじゃん!皇!少しでもすごい進歩だよー。水が怖い怖いって泣いてた皇が、自分から潜るんだもん。びっくりしちゃった」