第10章 嫉妬心
「…暑いなあ」
五条さんに言われるままに外に出たはいいけれど、右も左も分からない私はキョロキョロと辺りを見渡す。ふと目に入ったのは、運動場で訓練を行う、高専生達だった。
手前の方にいるのは、きっと伏黒君だ。
「…なんか、いいな」
私はぼんやりとその風景を遠くから眺める。
なんだか、自分は踏み入ってはいけないような気がした。
「……私も、ああいう青春送りたかったなぁ」
その時、伏黒君と目が合った。
彼はじ、と私を見た後、認識したのかゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「…さん、なんで高専に…、つかもう身体は大丈夫なんですか」
「ちょっと用事があって…、大丈夫だよ。あの時はありがとう」
「いえ」
用事という言葉を聞いて、伏黒君は怪訝そうな表情を浮かべたけれど、それ以上言及してくることはなかった。
「…訓練、戻らなくて良いの?」
「今休憩中なので」
「そうなんだ」
遠くの運動場で、高専生達がワイワイとはしゃいでいる声が聞こえる。…パンダさんもいるなあ。
「…なあさん、アンタ、五条先生と──…」
「伏黒ォ!彼女とイチャついてないで真希さん達の飲みもん買いに行くぞ!」
何かを言いかけた伏黒君の声に被さって、女の子が運動場から叫んだ。
「チッ、…それじゃあ行きますね。彼女ってのはちゃんと訂正しておきますんで」
「もちろんだよ」
その時、背後から聞こえた声に私と伏黒君は目を大きく見開いた。
「ご…五条さん…!」
「…五条先生」
「は僕のだからね、ちゃんと訂正しておいて」
五条さんの言葉に辟易とした表情を浮かべた後、伏黒君は皆の元に帰って行った。
五条さんの感情は、読めない。未だ怒っているのだろうか。
「帰るよ、」
「……ん」