第8章 君に触れる
「・・・」
自身のマンションへ帰宅した五条は、抱きかかえたをベッドの上にゆっくりと降ろす。
時間が経つにつれて、徐々に顔色に血の気が戻っていくに、五条は安堵の息を漏らした。
ベッドの傍らにある椅子に腰を掛けると、目隠しを降ろし、五条は思考する。
…なぜ、は宿儺に襲われてしまったのか。
の首筋の傷に残った強い宿儺の残穢から、血を呑む事を目的とした襲来であることは明確。
しかし、高専の帳に突破されたような形跡はなかった。
…と、なると。
襲来を受ける前に、が自らの意思で高専から出て行った事になる。
の白い頬に残った涙痕を、五条は指先でなぞる。
────────…ぴく、
の長い睫毛が微かに揺れた。
「……!」
ゆっくりと開かれた大きな瞳に、五条は思わず大きく目を見開いた。
「五条……さん?」
は未だ覚束無い意識の中、視界に映った男の名を呼ぶ。
小さくても確実に鼓膜を揺らした彼女の声に、五条は酷く安堵した。
そして堪らず、その身体を優しく抱き締める。
「…え、…ど、どうしたんですか」
は未だ現状を理解していない様で、どぎまぎとした様子で五条を見遣る。
「…ごめん、ごめんね、。守ってあげれなくてごめん」
何度も何度も零される謝罪に、は更に困惑しながら上体を起こした。
しかし、徐々に鮮明となっていく意識に、の記憶は途端に呼び起こされる。
「……っ、…わ、たし……、痛……ッ」
想起された記憶に併せ、首筋に痛みが走る。五条は咄嗟に抱擁を緩め、身体を起こしたの顔を覗き込む。