第6章 亀裂
背後から聞こえた声に、再び身体は小さく震え出す。ゆっくりと後ろを振り返ると、その姿に大きく目を見開いた。
「・・・いた、どりくん?」
「残念だったな、今は小僧ではない」
そう言って嗤う彼は、虎杖君に似ても似つかない別の存在だった。
「・・・ん?お前、よく見たら純血じゃあないな」
「・・・え」
「鳴呼、あの男の血が混じっているのか。忌々しい」
そう言って、その存在は心底不機嫌そうに表情を歪めた。
「・・・血?・・・あの男?」
「なんだ、お前は知らんのか」
キョトンとした顔を浮かべる彼。
私は恐怖で頭を働かせる事が出来なかった。
「よいよい。お前の愛らしさに免じて許してやる」
足音が、徐々に私に近づいてくる。
身体が、動かない。
強い力で腕をつかまれ、身体を抱き起こされるとその存在と視線が絡む。
逸らしたいのに、恐怖で身体は言うことを聞いてくれない。
「そう怯えるな。お前のことは殺しはしない」
そう言って、私の濡れた前髪をそっと撫でる大きな手に、びくりと肩を揺らした
「・・・しかし、その血は気に入らんな」
再び不機嫌そうな表情が視界に映れば、荒々しく塞がれた唇に大きく瞳を瞬かせた。
抵抗したいのに、無理矢理絡まされる舌に徐々に身体の力が抜けていく。
「んぅ・・・っ、・・・や、・・・」
どれほどの時間、咥内を侵されていたのだろうか。
漸く彼の唇が離れた頃、私の意識は朦朧としていた。
「・・・離し、て、」
「ふは、聞こえんな。・・・さて、血も良い塩梅になった。そのまま大人しくしていろ」
そういって私の首筋に彼が顔を埋めた瞬間、肌を劈く痛みに双眸に涙が溢れた。
首筋に伝う血を、その存在は舐め取り、吸い付く。
貧血のせいか徐々に痛みを感じなくなる程に遠のいた意識を、私はぷつりと手放した。