第6章 亀裂
「ただいま〜」
重い足取りで帰路を辿り、がいるであろう居間を覗き込んだ。
「お帰りなさい」
は必ず返事を返してくれる。
「・・・」
「ん?」
「ごめんね」
「・・・何がですか?」
はソファに腰掛けぼんやりと窓に映る外の景色を眺めながら尋ねる。雲は重く項垂れていて、今にも雨が降り出しそうだ。
明日は確か、雨が降るんだったっけ。
僕はの隣に腰を据えると、柔らかな黒髪を撫でてやる。
は少し悲しげな瞳を伏せて、視線を床に落とした。
「最近、ずっと1人で家にいるの、寂しいでしょ」
「・・・いえ、どうせ1人暮らししてても一緒でしたし。今更1人が寂しいなんて思いませんよ」
「・・・そう」
の言葉に、何故か酷く寂寥感が滲む。
しかし、なんて言葉を彼女に掛けるべきなのか分からない。
「・・・明日、また僕出張でさ」
「・・・」
からの返事はない。
「硝子の所に暫く居て欲しいんだ」
「・・・」
微かに、の瞳が揺れる。
「明日の朝、硝子が迎えに・・・、?」
「・・・っ、すみません、なんでもないです。分かりました。荷物はまとめておきます」
「ちょ、・・・!」
震えた声で言葉を紡いだ後、は逃げるように寝室へ去っていった。
僕はその小さな青中を追うことが出来なかった。