第1章 出逢い
「突然呼び出して悪いな」
硝子はさも悪びれていない様子で僕に謝罪を落とす。
本当に悪いと思ってる?なんて本音は、もう僕は大人だから言わないけどさ。
「高級チョコレートでいいよ」
「糖尿病になるぞ」
「僕は常々頭を使って糖分分解してるし、病気にはなりませ〜ん。最強なめんな」
さて、呼び出された要因の人間はそこのベッドに横たわっている女の子か。
なんて僕の思考に合わせ、硝子が事の説明を始める。
「今までさほど大きな呪霊が現れなかった街に、突然1級や2級レベルの呪霊が数体出現したんだ」
「へえ。それは物騒なことで」
「今回それに任されたのが七海でな。呪霊は問題無く祓うことができたらしいんだが」
・・・なるほど。
「この子がその呪霊達に執拗に襲われてたってわけね」
結論を話す前に口を挟んだ僕を、硝子は一瞥する。
「やっぱりこの子何かあるのか」
「それより、高専に呪霊は来てないの?」
僕の問いに対し、硝子はあからさまに表情を歪めた。
「分かってるなら聞くんじゃねえよ」
「あはは、ごめんって。疲弊しきった僕を呼び出した仕返し。さっき高専に帰ってきた時に呪霊の侵入を拒む帳が降りてたし、概ね何があったかは予想出来る」
その街に突然大物の呪霊が大量に現れたのも、高専に呪霊が寄ってきたのも、間違いなくこの女の子が原因だ。
「・・・で、この子が何者なのか分かったのか」
「さあ?」
「お前の六眼は節穴か?」
「この子が放つ特殊な香りが呪霊にとってかなり魅力的なものであるって事しか分からないよ」
「分かってんじゃねえか、ぶん殴るぞ」
不機嫌な硝子に、おー、怖い。なんて一笑を漏らす。
「恐らく香りの源は血だろうね。この子の血には強い呪力が混じってる。それこそ、低級の呪霊がこの子の血を舐めれば1級や2級レベルに跳ね上がってしまうほどのね」
「・・・」
どこか腑に落ちない表情の硝子を横目に、僕は言葉を続けた。
「それじゃあこの子は、そんな血を身に宿していながら今までどうやって生きて来れたのか、って?」
硝子は無言に首肯を示す。
「それはこの子に聞かないと分かんないなあ」
戯ける僕の脇腹に、遂に硝子の肘打ちが入った。