第5章 夢と溝
私は五条さんの事が好きなのかも知れない。
「はあ・・・、なんて夢見たんだろう」
五条さんとキスする夢を見てしまった。あまりにもリアルだったから、現実だったのではないかと少し期待したのだけど、そんな事は無くて。
きっと熱を出していたせいで変な夢を見てしまったのであって、決して恋心ではないと自分自身に言い聞かせる。
その結果、私は無意識に五条さんからのスキンシップを避けるようになった。
「・・・よし、今日はもう自分の家に帰るんだ」
誰も居ない室内で、ソファに腰掛け決意を固める。
五条さんは今、家入さんの所に薬をもらいに行ってくれている。
私も一緒に行くと言ったのだが、何故か待っているようにと止められてしまった。
何にせよ、これ以上迷惑は掛けられない。そして、これ以上五条さんに余計な感情を抱く事も出来ない。
「・・・やっぱり、好きなんだろうなあ」
あの夢を見た日から数日間。避けるようになったとは言え、一度意識しだした感情から目を背けることが出来なかった。
「たっだいま〜」
五条さんが帰ってくる。私は玄関まで来て、出迎えた。
「やっほ、〜。僕がいない間何にも無かった?」
「ん、平気でした」
「そっか、良かった」
五条さんは、私の頭を撫でようと手を伸ばす。私は、やんわりとその手を避けて、五条さんが手にした薬を指さす。
「・・・それ、新しい薬ですか?」
「・・・、ん、ああ、そうだよ」
「取りに行ってくれて、ありがとうございます」
「いや、全然いいんだけど。それよりさ・・・」
「あの、五条さん」
私は五条さんの言葉を遮って、彼の名前を呼ぶ。
五条さんは少し驚いた様に、サングラスの奥、大きな瞳を見開いた。
「わ、たし・・・」
言え、言うんだ。
「わたし、・・・今日でここを出て行こうと思います」
ありがとう、五条さん。
私を守ってくれて。私を救ってくれて。
束の間とは言え、私に恋をさせてくれて、ありがとう。
私はこの恋心に、終止符を打つことにした。