第2章 君の事
「おかえり〜」
ソファでぼんやりとスマホを眺めていれば、がお風呂から帰ってくる。
「・・・お先でした。タオルとか服も、ありがとうございました」
「ん、気にしないで。お、似合ってるじゃん。は可愛いからなんでも似合うね」
「からかわないで下さいってば!」
「本当のことだってば」
可愛いというと照れて怒ってしまうをついつい揶揄してしまう。
「さて、僕もお風呂入ってくるね。待ってて」
「ん、・・・ゆっくりしてきてください」
僕はの顔をじ、と見下ろす。
は不思議そうに首を傾げた。
「.・・・いや、何でも無いよ。眠かったら先に寝てていいからね」
「?、・・・ん、わかりました」
シャワーの音を尻目に、ぼんやりと思考を巡らせる。
───…どうして泣いたの。
先刻、つい口をついて出そうになった疑問を思い出す。
顔にこそ出していなかったが、微かにが纏っていた負の感情に気付いてしまった。
この浴室にもその残穢が残っている。
きっとシャワーを浴びながら1人で泣いたのだろうか。
呪霊という名も知ることが無かった環境の中、たった1人化け物が見えてしまう世界で、彼女はどれほど辛い経験をしてきたのだろうか。
泣いた理由を問う行為すら、浅はかな気がして結局聞き出すことは出来なかった。
キュ、と音を立て、蛇口をひねる。シャワーの音が止んだ。
シャワーを終えて居間に戻ると、そこにの姿はなく、代わりに机上に小さなメモが置かれていた。
── 先に寝ますね。昨晩はベッド、ありがとうございました。今晩は五条さんがベッドで寝てください。おやすみなさい。
「・・・あ、」
居た。
てっきり寝室で眠っているのだと油断していたが。
ソファの上で横たわり、小さく身を縮こまらせて眠っているが視界に映った。