第2章 君の事
何故こんなことになってしまったのか。
五条さんが帰ってきた後、とりあえずお風呂に入っておいでと促され、今脱衣所にいる。
購入したばかりの服を握りしめ、静かな辺りを見回す。
広めの脱衣所と締麗な洗面台に、締麗な洗濯機。床に乱雑に置かれた段ボールの中には新品のバスタオルが個装に入ったままで乱雑にちりばめられている。
「あまり、この家には帰っていない人なのかな」
締麗な浴室でシャワーを浴びながら黙々と考える。
昨晩、結構な怪我を負っていたはずなのに、今は身体に傷なんてものは一切ない。
にわかに信じがたい事が、自分の目の前で起こっている気がするが、昔から呪霊が見えている自分にとってさほど驚くことでもない気がするのも事実。
「本当に・・・ここにいて良いのかな」
なんて疑問もシャワーの音にかき消されてしまう。
正直、今の私に五条さん達を疑っている余裕は無かった。
昨晩も死を覚悟した中で助けられたのは事実。
頓服薬の作成なんて普通であれば疑うべき話なのだろうけど、私は藁にもすがる思いだった。
「なんて、昨日襲われているときは死ぬ覚悟してたのになあ」
小さな頃から呪霊が見えていた私の存在は、回りにとっては奇怪なもので、理解されることなんてなかった。身よりの無い私は、とにかく家に住まわせて貰っている親戚の人達に迷惑を掛けまいと必死だった。生きる為に。
しかし、呪霊達はそれを許してはくれなかった。
目が合っただけで追いかけてくるもの、家に災いをもたらすもの。私がいるだけで不可解な現象が起きることを、当然家に住まわせてくれる人達は気味悪がった。
私にまつわる噂はあっという間に流れ、とうとう家にも、学校にも居場所が無くなった。
それでも、やっと高校を出て、これから自立出来るって時に・・・。
「・・・また、誰かに迷惑をかけてるのかぁ」
私は、降り注ぐシャワーの下、しゃがみ込むと声を殺して泣いた。
どうして涙が出るのか正直分からなかった。
久しぶりに人の優しさに触れたからなのか、また振り出しに戻ってしまった自分自身への失望からなのか。
結局、答えを導き出せない儘、私はシャワーを終えた。
新品の寝間着に着替えた後、洗面台に立って、自分の表情を確認する。
「よし、目の赤みは取れてる」
泣いたのがバレないように。
深呼吸をして、私は浴室を後にした。