第13章 月色の獣 - 馳せる想い*
抱き上げた加世の体は軽かった。
されど供牙は言い様のない重みを感じていた。
主人のため、その大切なものを護るため。
しかしその決定権を全て相手に委ねていた私は、今まで何と楽な道を選んでいたのか。
今はその『やり方』を、考えなければならない。
第一は加世、次に自分。
私が居なくなれば加世も倒れる。
順番を間違えるな。
***
楽な道のりでは無かった。
妻を奪われたその地の権力者でもある加世の夫は、その面目を守る為に執拗に二人を追った。
札差という職業は旗本や御家人といった者達にも顔が利く。
それから同時に加世の実家の者たちも。
他人の目をかいくぐり、時には追っ手を傷付けて二人は逃げた。
元々頑強な自分に比べ、ただの人間の女性である加世の弱さを、供牙は何度か心の中で呪った。
ここで倒れられたら私の生きる意味が無くなってしまう。
供牙の唯一が加世だからこそだ。
道中で手荒な追跡者を排除していていた時に、何度か加世にたしなめられたせいもあるのかもしれない。
もうぐったりとして抵抗する気力も無くした相手をそれ以上追い詰めるのを、加世は好まなかった。
「ここで仲間を呼ばれたら私たちが危険な目に遭う」
「それほどの価値はわたくしには無いの。 これ以上この者を傷付けるなら、どうかわたくしを置いていって」