第13章 月色の獣 - 馳せる想い*
供牙はその場で少しばかり逡巡し、結局人の姿に変わってから加世へと近付いた。
「加世」
声を抑えて二度ほどそう呼ぶと、加世が虚ろな瞳を供牙に向ける。
「だ……れ?」
「遅くなって済まない」
供牙は召使いにしてもこの場にそぐわない、粗末な服装をしていた。
その外見もまた奇異なものだ。
金の瞳に肩までの白い髪。6尺も超える身の丈。
けれどそんな彼をじっと見て、今一度その声を聞いた後。
供牙が手に持っている鉢植えへと目を移した加世は、全てを察したのか両手で顔を覆った。
「……加世。 もう大丈夫だ」
「供……供牙。 なんで?」
「私と一緒に行こう」
指の隙間から溢れる涙をそのままに加世が首を振る。
「待っ……て。 た、のに…っ」
「……済まない」
「私は元の家を出た。 こんな所を出て私と行こう」
「……供……」
まるで童女の様に泣き続ける加世を供牙は静かに待った。
「だけど、無理だわ。 今更ここを出るなんて」
「無理ではない」
「実家にも尖がいく」
「親は本来子の幸せを願うものだ」
「なぜ、もっと早く来てくれなかったの!? わ、わたくしはもう……汚れてしまったのに」
「………お前の欲しい言葉をあげたい。 けれどお前はちっとも変わってないと、私はそう思う。 何よりも加世が大切だと私は思う。 共に来てくれるか」
「……供…牙」
「私の全てをお前に捧げるから」
「もう二度と、わたくしを置いていかないのなら」
「約束する」