第13章 月色の獣 - 馳せる想い*
それらの疑問がある満月の夜に突然明かされる。
月の光のもとに縄に繋がれた自分の目が見下ろしている人の手と、それから人の足。
月下に透ける毛先が肩に落ちていた。
ああ、どうやら私は犬ではないらしい。
狂おしい程のこの激情も犬のものではないらしい。
供牙はそう理解した。
それなら私がする事は決まっている。
きつく結ばれた縄を指先で外し、納屋を出た供牙は自分が長年住んでいた家を振り返る。
入口の門戸に、薄紫の花をたたえた鉢植えがあるのに視線を止めた。
『わたくしは可哀想な事をしたのかしらね?』
自分が決めた主に忠誠心を捧げる事。
それは絶対と言っていいはずだった。
それでもこの血は、従うよりも護る事を選ぶ。
「ご主人様。 今まで世話になりました」
そんな彼の小さなひと言に気付く者は誰も居ない。
それはその言葉が終わるか終わらないかののちにまた元の姿。
狼に戻って闇の中を躍る様に走り始めた供牙の吼え声と混ざりあった為なのかもしれない。