第12章 月色の獣 - 少女との絆
そんなある日の夜。
寝所から身を起こした加世は、時も九つ(約0時)を過ぎた頃に室の障子を開けてそっと外へと抜け出した。
離れの隣にある家の納屋には、すっかりと大きくなった飼い犬、供牙が丸くなって眠っている。
加世の気配に気付いた彼は小さな声でそれをたしなめた。
人にしてはあまりにも低い、唸り声にも似た人の言葉だった。
「あまりここに来ると危ないだろう」
「いいの。 ここが一番落ち着くの」
そう言って供牙にもたれかかる加世の体を冷えないようにと尻尾でくるみ、供牙は目を細めて歳若い娘の話にじっと耳を傾けた。
その日はどこそこに咲いてた薄紫の花がとても綺麗で、多少摘み帰って家の鉢に移し替えたとか。
「ねえ。 けれどわたしくしは可哀想な事をしたのかしらね? あの美しい花はきっと家族と一緒だったのに」
「実や種子を遠くに飛ばし家族を増やすものにとって、それは決して悪い事では無いだろう。 加世が大切に育ててやるのなら」
「そうね。 そうするつもり」
どちらかというと内気な加世は供牙の前だとよく話す。
それはまだ供牙が言葉を話さなかった仔犬の頃から変わらなかった。