第12章 月色の獣 - 少女との絆
「また縁談を断ったのか? 日中旦那様が私の所まで来てボヤいていた」
「……する気にならないんだもの」
「気分でするものではあるまい。 私の様な奇異な獣と夜毎過ごしていると知れば、旦那様はどんなに動揺し、ご心配なさるか」
二人は強い絆で結ばれていたが、その底流にあるものは少しばかり異なっていた。
供牙にとって加世は主人の娘であり何を置いても護るべきもの。
加世にとって供牙は親友でありこの世で一等理解のある兄の様なもの。
「……供牙と離ればなれになるのは嫌よ」
「それなら旦那様にそれを話してみるといい。 許されるなら、私は嫁ぐお前と共に行こう」
「本当に!? ……っぷ!!」
ばふんと大きな尻尾で口を塞がれ、驚いた加世がぎゅっと目をつむる。
「こら。 大声を出すな」
「本当に? ……わたくしと一緒に来てくれるの?」
「ああ。 きっとそれが一番良いだろう」
弾んだ様子で納屋を出ていく加世を見送り、供牙はほうとため息をつく。
これで旦那様も安心するはずだ。
あの子はただ見知らぬ土地に一人で嫁ぐ勇気が無いのだろう。
そしてそれは幼少の頃から共に居すぎた私の責任でもある。
再び体を丸めて微睡みに落ちる直前に、ふわりと自分の尾から加世の香りがした。
あんなに女になっても心はまるで子供。
人間とは難儀なものだな、と供牙は思った。