第12章 月色の獣 - 少女との絆
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まだ加世が小さな頃に、店の旦那が番犬替わりにと白い仔犬を拾ってきた。
供牙と名付けたその仔犬は加世によく懐き、そして加世もよくそれを可愛がった。
加世が15歳になろうとする頃、その周囲に変化が訪れる。
器量の良い加世にそろそろと縁談の話が持ち上がろうとしていた。
「まだわたくしはお嫁になど行きたくありません」
俯く一人娘に子煩悩な両親も、いささか困り顔だった。
呉服屋で一番の花嫁衣裳の反物を見に行こうと誘っても、歳の近い誠実な男を選ぶからと言っても、一向に首を縦に振らない。
このままでは年頃を超えて娘に変な噂が立ってしまわないだろうか?
当時は16、17歳にもなれば嫁入りは当たり前とされていたのだ。