第12章 月色の獣 - 少女との絆
「加世。 体の具合はどうだ?」
がたついた粗末な木の引き戸を開けると、夕げの香りがした。
「ええ、ええ。 いつも通りよ。 すっかりこの通り」
本来ならば鼻が利く性分だというのに、家に入るまでそれに気付かない。
それは二人がつつましい暮らしをしているからだという事を物語っている。
顔色が良くないな、そう女に話し掛けると何でもないと加世は笑う。
「こうやって供牙と暮らせるだけで、わたくしは幸せなのに」
そんな加世は本来ならば町一番の大店である薬種問屋で生まれ、何不自由無くとは言わないまでも、それなりの暮らしを約束されていた女性だった。
人目を避ける為にこんな田舎に引っ込み、慣れない暮らしでよく体調を崩す様になった。