第11章 月色の獣 - 序
「受け取っていただかなければ私が琥牙様の母上からお叱りを受けてしまいます。 琥牙様のご実家は母上様を中心に珍しい野草などの農業を営んでおりますし、里では以前お渡しした鉱物などの採掘の収入もあるのですよ」
緑豊かな場所に珍しい資源。
そんな所に人の手入れが入ってないのも不思議な話だが、その度に里の狼たちが巧妙に立ち入りを阻止していると聞いた。
のどかで美しいところなんだろうと思う。
「……いつかそこに訪れてみたいですね。 許されるならば、ですけど」
「是非とも。 うちは人間の出入りには厳しいですが、真弥どのでしたら皆きっと歓迎するでしょう。 琥牙様の母上も大層真弥どのに興味を示しておられましたよ」
目を細めふふ、と笑いを漏らした珀斗さんがすっと立ち上がった。
「では私はこれで。 あまり長居すると琥牙様に叱られてしまいますからな」
「あの、珀斗さん」
なんです? 振り向いてそう瞳で聞き返してくる彼はすでにバルコニーの外に片脚を掛け外に出る所だった。
「もし。……もし万が一琥牙が私のせいで人を傷付ける様な事があったら、どうか止めていただけませんか?」
「それは、どういう……」
言いかけて私の表情を見、彼が僅かに視線を外す。
「それは……お約束いたしかねます。 母が子を守る事や寝食と同様に、それは私たちに根差した本能ですから」