第11章 月色の獣 - 序
「けれど、そうですね。 真弥どのの頼みでしたら、努力いたしましょう。 くれぐれもそのような事のないように願っておりますが。 ……近頃の琥牙様の成長は著しい。 この老狼でどこまでお役に立てるか」
そう言って珀斗さんは口元だけでと微笑んだあと、身を躍らせて外の枝々を伝い私の視界から消えていった。
彼と共にゆく事に対して私はなんの迷いもない。
彼を傷付ける気ももちろんない。
裏切る気も。
ただ。
『真弥を取られる位ならおれは相手を殺すと思う』
『お二人を食い殺してしまったそうです』
自分たち以外の第三者にも向けられるという彼の……彼らのその熾烈さに限っては、私には迎合出来そうにもない。
顔を上げて時計を見るといつも起きる時間よりも大分過ぎてしまってる事に気付いた。
気を取り直して洗面所に向かう。
「……さっさと会社に行く用意しなくっちゃ」