第11章 月色の獣 - 序
「ああ、けれど。 私たちの始祖であるかの方は、月と見誤らんばかりの輝く白銀の毛並みであったと聞き及んでおります」
『月と見誤らんばかりの白銀』
夢に出てきたあの狼はそうではなかったか。
「始祖というと、人の女性と結ばれたという……」
「それもご存知で。 ええ、そうです。 ただ、言い伝えの一説によるとあの話は決してよい結末では無かったとも云われております」
「それはどんなものなんですか?」
「何でも御相手の女性が始祖の子供を身篭り産み落としたあと、結局他の人間の男性を愛して里を離れてしまったとか。 それを許せなかった私たちの始祖はそれを追い掛けて結局二人を食い殺してしまったそうです」
「あれにはそんな……続きがあったんですね」
夢見がちな話ではなく、現実はあくまでも厳しかったという事だろうか。
確かにやり過ぎだとは思う。
けれど人間に変わってまで人を愛した狼の気持ちを考えるとそれも胸が傷んだ。
「私たちが自分のつがいに度を超えた執着をするのは、過去の歴史のそんな影響もあるのかもしれませんなあ。 ……とはいえ、これもあくまで現存している言い伝えのひとつに過ぎませんけどね」
実は今日はこれを届けにきたのですよ。 珀斗さんが首元から小さく折った封筒を出して私に手渡してきた。
以前も思ったが彼の首の毛の中はどうなってるんだろうか。
「いいんですか?」
引越しをしてからこっち、琥牙の家からと毎月援助をいただいている。
初めは断っていたが確かに元の所よりも家賃はかかるようになったし、雪牙くんの訪問なども増えて出費がかさんでいたのは確かだった。