第10章 イケメン vs. 子狼
「分かる? だって武器を持たない小競り合いなんてたかがしてれるし。 そう思うようになったのは父親が死んだ時からだよ」
「確か銃でって……」
それが原因で亡くなったのだと少し前に泊斗さんが言ってた。
「そう。 おれらの中でも最強だと言われてた父親が人の銃弾で簡単に倒れた。 だからおれはこのままでいい。 雪牙はあんなに強いんだから、あいつがリーダーになればいいと思ってる。 おれは真弥を守れればそれでいい」
そう言って琥牙が顔を寄せてきて私の頬に口付けた。
その時の私はなんと言っていいのか分からなくって複雑な表情をしていたと思う。
琥牙に色々複雑な事情があるのは知っている。
それはあの雪牙くんも同じ。
「雪牙くんは基本的に人間が嫌いなんだよね」
「正確に言うと弱い人間が、かな。 それこそ武器を持ち出すような。 雪牙は頑なにおれの事を信じてて、いつか父親の仇とるような大人になるって。 それはおれがずっと傍にいたから慕ってるってのもあるんだろうけど、……人と狼の血を引いてるからだと思う」
だけど動物の血が濃い方が強いんじゃないの? 理解できなくて首を傾げる。
「人の血も引いてるから? それってどういう意味?」
「元々のおれらの祖先がそうだったって云われてる。 何百年前か何千年前。 おとぎ話みたいだけど、狼が人間の女性と恋をして姿を変えたのが最初の人狼だとか。 そしてその間に出来た子供は人と狼の頂点だったらしくって、今も両方の世界で神格化される話の元にもなってる」
世にいう人狼や狼男。
愛する女性と結ばれるために人間に変身する様になったとは、何ともロマンチックな由来である。