第10章 イケメン vs. 子狼
「よく弟の試合の観戦とか行ってから、慣れてるのは慣れてるのかな。 今はあれでも穏やかになったんだけど浩二って基本的に馬……頭に血が登りやすいし。 ……それにしてもなんであんなに雪牙くんって強いの?」
力持ちなのは知ってたけど。
今みたいな人の姿でもまるで動物みたいに速く高く上下左右と忙しなく動く。
あんなのはプロでも見た事ない。
「うーん。 例えばね、三キロ足らずの猫相手に本気で来られたら、成人男性でも降参するらしいよ。 重量差は確かにあるけど、単なる体の作りだけでいえば人間ほど戦いに向かない動物ってあんまり居ないんだよね。 あ、アイスもらっていい? 溶けそう」
「じゃあ、私も食べちゃう。 ……でも、人の時の雪牙くんって牙も爪もないよね?」
観戦に飲食が加わった。
頭上からは白い太陽の日差しが地面に影を作り、こんな暑さじゃホントはビールといきたいところでもある。
「聴覚や嗅覚が元から桁外れだし、反射神経もおれたちは作りが違うから。 筋力もだけど、戦いに限れば人の時はなにより咬合力かな」
「咬む力って事?」
「そう。 人間はせいぜいイコール体重なんだけど、狼のそれは自重の5倍以上。 雪牙の……例えば握力なんかだと150キロ超えるんだけど、そのレベルの腕力と膂力なんかに人の何倍もの咬合力が乗るわけ」
「それが速さや力に繋がるのね。 確かに力を入れる時歯を噛みしめたりするよね」
獣体だと爪や牙があるから強みや戦い方がまた全然変わってくるんだけど、と琥牙が続ける。
そんな事を聞いてると雪牙くんがまるで大きな虎みたいに見えてきた。
「だからおれは狼の時の雪牙以下なんだよね。 生みの母狼はもう死んだけど、元々あいつは純血だし」
嫌な事を思い出した、そんな表情の琥牙。
「でも琥牙って実はそれ、言うほど気にしてないでしょう?」