第7章 引越し蕎麦※よく見ると三人前
「寝室は何処ですか?」
「隣の部屋です」
それにしても、『暑い時期は滅多に無い』? それって……
考えている私を無視して泊斗さんが低い体勢になりガブリと琥牙のお腹の辺りに噛み付いた。
「はっ!?」
素っ頓狂な声を出してしまった。 そしてそのまま泊斗さんがずるずると琥牙を引き摺り隣室へと向かう。
琥牙はもはや意識がないんだろう、目を覚まさない。
「あの!? そんな乱暴に」
「はたふしはひは、ふふうふうはっへはほひはふよ」
ちょっと何言ってるか分かんない。
そのまま寝室に足を踏み入れると首を大きくひと振りして、まるで人形にでもそうするかの様に空にぶんと琥牙を放り投げた。
「きゃあああああ!!」
「まずは寝床に運ばないと」
そ、それはそうなんだけど!
宙に浮いて無造作にベッドに叩き付けられた琥牙。
その瞬間壁で頭を打ったんだろうか、ゴッ!って固いもの同士がぶつかる音が聞こえた、絶対。
何でこんなにワイルドなの?
彼に駆け寄った私は思わず胸の音を確認した。
眉を寄せて物凄く痛そうな顔をしてるけど良かった、生きてる。
「私たちはこうやってものを運びますから。 風呂場はこちらですか?」
「は……? は…い」
バスルームから水がざばさばと流れる音を聞きながら、私がよいしょとよいしょと琥牙の体を布団の中に入れる。
汗で濡れてる服なんかも着替えさせたいけどもう少し落ち着いてからの方が。
救急箱はどこに閉まったっけ。 そんな事を考えていると泊斗さんが戻ってきた。
「………真弥どの、何を?」
「え? 普通に寝かせてるんですけど」
アナタが雑に放り投げるから。