第7章 引越し蕎麦※よく見ると三人前
そのままお尻をついてしまった私の胸から頭がずり落ちそうになり慌てて彼の体にぎゅっと手を回した。
それきり目を伏せてしまった琥牙。
眉を寄せて、息が荒い。
ど、どうしよう。
救急車を呼べばいい!?
「──────あの」
その時。 小さなおずおずとした声がバルコニーの外からボソッと聞こえた。
「は……っ泊、泊さ……」
泊斗さんだ! 助かった。
「はい。 雪牙様と入れ違いで。 引越し蕎麦を持参しましたが、今お邪魔でしたか? しかしどうやら意外に激しめの」
カーテン越しに見てたら私が襲われて彼が覆いかぶさってるように見えるんだろう、なんて今はどうでもいい。
「泊斗さん、来てください! 琥牙が……っ!」
「どうかしましたか? ……ああ、また倒れられたのですね。 お可哀想に」
こういう時に一番慌てそうなこの人が琥牙を一目見たのちに冷静な様子で部屋に入ってくる。
その反応にきょとんとしていると具合の悪そうな琥牙を抱いている私に、泊斗さんはさっきから口に咥えていた風呂敷包みを差し出してきた。
「えっと……あの?」
「引越し蕎麦です」
何処で入手して来たんだろう?
って、だからそれどころじゃない。
「あの! 琥牙が、いきなり倒れたんです! 熱があるみたいで」
「はい。 暑い時期は滅多に無いんですが。 大丈夫です。 琥牙様は産まれた時から一年のうちの三分の一はこんな感じですから」
「ええ!??」
琥牙が超病弱だったとはこれも初耳である。
「ですのでむしろこちらに来て不思議だったんですよ。 いつもお元気そうなのが」
そう言いながら泊斗さんは引越し蕎麦をテーブルに置いてから琥牙と私の傍に再び寄ってきた。