第43章 オオカミ青年とおねえさん
[美緒]
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私はてっきり莉緒が異性に慣れてないとばかり思っていた。
現に私には男性の友人も多い。
けれど大学を卒業したと同時に莉緒が結婚をして、一方、私には浮いた話のひとつも無い。
『そういう意味だろ』
二年前にそんな風に彼に言われ、ようやく私は自分の気持ちに気付いたぐらい。
そして本当の意味で異性に慣れてなかったのは、実は私の方だとも気付いた。
……たぶんだけど、莉緒のことが気になって、自分のことまで気が回らなかったんだろう。
それについてはいい。
いいのだけれど。
「雪牙さん! 供二くんと遊ぶのはいいけど、あんな高い木の上なんて、危ないでしょう!?」
「いいんだよオレらは。 逆にあんぐらいじゃなきゃ鈍るんだから。 いちいちうるせえなあ」
「それにまたこんなに散らかして……姉さんの仕事が今繁忙期なのは知ってるでしょ」
「あーもう、うるせー。 仕事仕事ってホント」
「……なに?」
「仕事してても真弥は女らしいのにな」
そう言ってから雪牙さんがはっとした顔をした。
私の顔をチラッと見てから、気まずそうにその場を離れる。
彼が姉のマンションを出て行った後で、部屋の片付けをしながら出るのはため息ばかりだ。
雪牙さんとは昔から折り合いが良くなかったけれど、祖父が去年他界した、最近は余計に酷くなった気がする。
そしてこうなると何日か彼と口をきくことはない。
相性が悪いんだろう。
雪牙さんがあの時口に出した言葉も、今は違うのだろう。